No.11 ラブ・アフェア
🎶 こもれびの手紙
貴島が銀座を去ってから一ヶ月が経った。
貴島はモテ男で、さぞ幸せだろうと、
誰もが想像してもおかしくはない。
ところが現実はその真逆であった ─。
彼を射止めたい追っかけや
ストーカー的なファンが
何十名もいるとなると、
トラブルや争いが起こるのが自然。
たとえば、
「貴島さんの子どもがいるの‥」、
「告白されたの!」とか、
故意に話しをつくり、
ホステス間に広めたり、
悪意に充ちた女性たちも
増え始めていた。
貴島は悩みに悩んだ末、
「紀佳」のママに相談した。
紀佳ママはすぐさまミス麗子の耳にいれた。
ミス麗子:貴島君さ、銀座はお休みして、
関西を覗いてみる気はない?
独身だから、支障はないでしょ?
貴島:はい、大丈夫です。
ミス麗子:実はね、
貴方の黒服ぶりを気に入っている
大阪のホテル王がいるの。
Kissのデザインショコラで有名な
シティツリーホテルのオーナーよ。
同じ黒服でも、ホテルマンとして活躍なさいな。
銀座に戻ってこれる環境になったら、
戻してほしいとお願いしてあるの。
まぁ、出向ぐらいに考えて ─。
貴島:そ、そんな凄い方がぼくなんかを‥。
何か緊張してしまいます!
ミス麗子:(笑)貴方なら大丈夫。
それより、来週の番組に電撃ゲストで
出演してくれないかしら?
ホワイトデイとして ─。
………………………………
〔ラジオ局内ミス麗子の控え室にて〕
ミス麗子:貴島君と琴葉ちゃんのことは
悪いようにしないから、
私と紀佳ママを信じてネ!
客席にいる一ファンが
トム・クルーズの心を
掴んだようなものだし(笑)
一緒になれるなら、
数年ぐらいは我慢できるでしょ?
紀佳ママ:会えるようにしてあげるから‥。
琴葉:はい‥。
………………………………
〔ラジオ局内ブースにて〕
ミス麗子:今宵の恋の深夜便、
リスナーの皆さんは
楽しんでいただけたかしら?
ではここで、電撃ゲストをご紹介します。
銀座の黒服こと「紀佳」の貴島 悟君と、
紀佳ママのお二人です。
貴島:……
ミス麗子:?
紀佳ママ:実は、何日か前から
声が出なくなり…、
心因性失声症とかいうらしいんですが。
ミス麗子:まぁ、お気の毒に…。
お店も困るでしょ?
またどうして?
貴島:〔紙にマジックで書き始めている…〕
銀座で働く皆さんに
波風を立てたことで悩んでいましたら、
ある日突然声が出なくなり‥、
銀座を卒業させていただくことになりました。
ご心配をかけて、申し訳ありません。
紀佳ママ:銀座の女子たちに
何かお願いがあるのよね?
貴島:〔筆談で〕はい。
夜の銀座はお客様のためにあります。
ホステスさんも、黒服も、
そのお客様のために
心を尽くさなくてはなりません。
銀座の宝であるホステスさんは、
ぼくなんかの黒服に
ショコラを探す必要はない。
高いお金を落としていただく
お客様のために、
とびきりのショコラを
探すのがマナーです!
銀座では脇役の黒服が
目立つことは許されません。
神様がぼくに罰をくだされたのだと思います。
本日をもって、
貴島悟は銀座を卒業させていただきます。
皆様、お世話になりました。
〔貴島は頭を下げながら。
むせび泣きしていた。
ブースの外では琴葉がしくしく泣いている〕
ミス麗子:なんて素晴らしい方なの‥。
もらい泣きしちゃうじゃない。
紀佳ママ:ミス麗子、銀座の損失ですよ。
まずこれだけの黒服は出ないでしょうし‥。
うちの店も、痛手だわ‥。
ミス麗子:こんな黒服に
支えられていることに感謝してこそ、
銀座女子じゃないですか。
大切なことを、
貴島君から教えられましたね。
これでも彼を追っかける人がいたら、
このミス麗子が許しませんから、
いいですね!
夜の銀座を代表して、
ご迷惑をかけたことをお詫びするわ。
〔ミス麗子が深々と頭を下げる。
すかさず紀佳ママも頭を下げている〕
貴島の声なき声の力は凄かった!
銀座の女子たちの争いは終わり、
誰の口からも、
貴島の「き」の字も聞かなくなっていた。
中には、紀佳ママに頭を下げにくる
ホステスもあらわれた。
…………………………………
ミス麗子のラブ戦略は、
恋愛王子ことDr.れいからの
電話での一言からひらめいたものだった。
Dr.れい:黒のままだと、
お店で琴葉ちゃんカラーの
ピンクのドレスは見られなくなる。
黒でなくなると、ピンクのラブはOK。
ってことだよね?
銀座のお嬢さんに
衝撃の一打でも食らわせたりして(笑)。
ミス麗子:あっ、ひらめいたわ!!
これで銀座が落ち着きを取り戻す ─(笑)。
……………………………
琴葉は日に日に
チャーミングさが増していた。
貴島に会いに出かけ、
恋を育む人生が夢のようだった。
女が美しくなるには、
恋にときめくか、
恋を励みに、
異性からみられる仕事に打ち込むのがベスト。
琴葉が女性として魅力的になるのは
当然のことだった。
そんな琴葉を見ていて、
フェローに会いたいなぁ‥と
思うミス麗子だった。