No.12 ミスの花凛決意

 

🎶 ヒーリングファイア

東京ドームではしゃぐ時枝は、
まるでこどものようだった。
そんな時枝を隣りで
かいがいしく世話をするミス麗子は
ひそかに幸せを感じていた ─。

ミス麗子は久々に時枝と同伴していた。
時枝の愛人として育てられたお陰で、
ミス麗子は銀座で頭角を表すことができた。
いわゆるフィクサーとして
メディアを手にしていた
時枝だったが、
糖尿病が悪化したため、
最近ではミス麗子を
抱くことはなくなっていた。

しかるにミス麗子は
時枝から声がかかると、
すぐさま会いにいき、
彼の体を心配したり、
糖尿病の名医を探したりして、
時枝に尽くすことを最優先していた。

WBCで大谷選手を
招くように働きかけた時枝は、
韓国戦前に彼からもらった
サインボールにご機嫌であった。
そしておもむろに語ってきた。

時枝:糖尿のせいで、
大谷君のサインがよく見えないんだよ。
情けないよなぁ。

ミス麗子:そんな弱気なことを‥。
私が貴方の目や杖になりますから、
いつでも甘えてくださいね。

時枝:麗子、お前さんはたいした奴だよ。
こんな私などに、よく尽くしてくれたもんだ。
有難う。
これ以上尽くすことはないよ。
惚れている男がいるなら、行っていいぞ‥。
もう自由にしていい。 

ミス麗子:会長さま、
そんな寂しいことを
おっしゃらないでください。
私は、人生の大恩人から
解き放たれたいなんて、
一度も願ったことはないですもの。
ホントですよ…。
〔ミス麗子はそう言いながら、時枝の太ももに手を添え、
「私が治して差し上げますから!」と微笑んだ〕

時枝:有難う‥。もう十分だよ。   
お前のような女を愛せて、幸せだった。

その20分後、
東京ドームから一台の救急車が走り去った。

………………………………

《恋の深夜便》がベスト聴取率賞を受賞し、
ミス麗子はベストナビゲーター賞を受賞した。

その記念企画として、
日本のメディア王である時枝と
大谷を招く話しが浮上していた。
が、残念ながら、
それは実現されなかった。

時枝は人工透析をしていたが、
心筋梗塞に襲われ、
帰らぬ人となってしまったからだ。

糖尿病の怖さを知った。
そして喪に服す意味から、
ラジオ番組を初めて休んだ。

代わりに、
大阪北新地にある
「会員制クラブ・ショコラ」の
オーナーママ、ミス花凛が
ナビゲーターをつとめることになった。
ミス花凛は
日本のファンビンビンと言われる超美人で、
ホステスジャパングランプリを
受賞していた。
銀座でも有名で、
ラジオ局にはファンが多く詰めかけていた。

…………………………

ミス花凛も、
ひとつ間違えば時枝コースだった。

5年前、糖尿病で緊急教育入院した際、
Dr.れいとミス麗子共通の朋友、
高宮からの苦言が
彼女の人生を変えたのである。

高宮Dr.:貴女のような
絵になるほど美しい方が体の中を
こんなにイジメちゃいけませんなぁ。
華やかな職業の先に
透析生活が待っていることを承知でも、
美食を続けられますか?
ミス麗子は目に泪をためて、
心底心配されていましたよ。

倒れたらお店はたたまなきゃいけないし、
ホステスさんは生活に困り、
お客様を失ってしまう。
糖尿病を放置したホステスさんたちが
膵臓や肝臓を苦しめ、
醜い風貌と化した自分の姿を
見つづける生き地獄に住む姿を
見るのはたまらないわって、
言ってましたよ。

貴女の美しい脚が
片足だけになる生活なんて耐えられますか?
〔高宮の真剣な目を見て息をのむミス花凛‥。
顔から血の気が引いた〕

ミス花凛は自分は若い上に
糖尿病遺伝子はないからと
たかをくくっていた。

お店でお客様から頂戴するお酒に、
閉店後にお得意様とお寿司や
焼き肉に付き合う日々は、
緊急教育入院といった形で罰が下った ─。

新地のクィーンの頭には、
1つの考えが浮かんでいた。
「隠れ糖尿や腎や肝機能障害の
ホステスたちを守らなきゃいけない!
そしてまず自分自身が
取り組む姿勢を打ち出そう!」
自分を甘やかしてきた
横着さと闘うと決意した。

高宮Dr.の勤務する大学病院からの帰り道、
ミス花凛は自分の美意識が偽りだったこと、
ミス麗子の器量の一片もない
レベルの低さにあることを実感し、
涙が止まらなかった。

「いつのまにか、
うちは周りに影響を与える人間に
なっていたんや!
めちゃ体を大事にしてる
ミス麗子に会えへん…(大阪弁)」

ミス花凛は
膵臓ランゲルハンス島をはじめ、
糖尿病や合併症のことを調べに調べた。

「私、ミス麗子のように、
ホンモノの美意識セレブになるわ!」

一週間後、
糖尿病であることを公言したミス花凛は、
これまでにも況して人気は高まっていた。
ホステス仲間にも、
お得意様にも糖尿病 Ⅱ 型であると公言し、
《ナイトクィーンの体を守る会》を
立ち上げたのである。   

会は、ホステスのみならず、
体調の悪いお得意様の男性陣まで
参加してきた。
糖尿病、高血圧症、
腎や肝機能障害から
ストレス頭痛、心臓疾患
をもつひとたちが
地元新地と銀座合わせて、
50名を超えていた。

会では、
自分のデータから逃げないことを誓いあい、
健康的な飲食との付き合い方を
学びあっていた。

………………………………

海外の一流医療関係者に
顔が広いDr.れいとDr.高宮が
世話役指導アドバイザーとして
関わってくれていた。

「まだまだやれる!」
「体力には負けない!」
「大丈夫よ、薬なんて飲まなくて‥」

と言っている人たちの多くが
たった一度倒れただけで、
命を落としてゆく。
そんな人たちを出したくない思いを
確認しあっていた。

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