No.5 薔薇時間
🎶夕刻のアクチュアリティ
薔薇時間
バーバラのガードは固く、
碧川や三井は、
打つ手がみあたらなかった。
このままでは
シルクキャッツが困ってしまう。
何か知恵は…。
真尋は急ぎ日本に帰国し、
恋人館へ飛んだ。
ゼロの王子に、
あるお願いをするためだった。
王子は真尋に応えた。
ニューヨークに戻った真尋は、
その足で、ミスグリーン宅を訪れた。
ミスグリーン邸に
〈美意識セレブ倶楽部〉とあった。
美意識セレブ…、
どこかで聞き覚えがある言葉だった。
━━(真尋)ゼロの王子からの
書簡を持参いたしました。
━━(バーバラ)お待ちしておりました。
ミスグリーンがお会いになるそうです。
[ 真尋はグリーンダイヤモンドの薔薇で
埋め尽くされた小庭を眺めながら ]
━━(真尋)初めまして、
柚希真尋です。
━━(ミスグリーン)ようこそ、
真尋さん、
姿月緑子(しずき・みどりこ)です。
あっ、ミスグリーンでいいですわ。
真尋は少し緊張しながら、
握手をした。
ベネトングリーンのケープが
エレガントだった。
━━(ミスグリーン)
王子を救っていただいたそうで、
お手柄でしたね。
王子からお電話がありましてね。
真尋は、一瞬にして、
気品に充ちたミスグリーンの
エレガントな語りに包まれ、
心がほどけていった。
━━(真尋)いえ、
王子を想う関係者の気持ちが
一つになったのだと思っています…。
早速、王子から預かった書簡を手渡した。
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ミスグリーン様
貴女の空間デザインのお陰で、
恋人館は世界のセレブたちを
満足させております。
オープンまでの二年間に
積み重ねた私どもの絆は
私の人生の宝となりました。
こちらの薔薇ガーデンと
ミスグリーン邸の薔薇が
同じグリーンダイヤモンドで
あることを誇らしく感じております。
いま、私がこうして生きていられるのは、
命の恩人である真尋さんと、
シルクキャッツこと、
一色 翔さんのお力によります。
翔さんのお父上、雪也画伯は、
ミスグリーンのお母様を描いた絵が盗まれ、
そのショックで、
倒れてしまったことをご存知でしょうか…。
また、貴女がお母様から
譲り受けられたペンダントをめぐる秘密が、
その盗難事件と関わりがあるということで、
翔さんは退路を断ってまで闘っていると、
真尋さんより知らされています。
ミスグリーン、どうか、
翔さんに会っていただけないでしょうか。
満月によって照らされた美しい自由の女神が
皆様を祝福することを祈っております。
ゼロの王子より
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━━(ミスグリーン)翔さんと私のために、
わざわざ神戸までお出かけくださったの?
ご迷惑をおかけしましたわ。
《 深々と頭を下げるミスグリーン 》
ミスグリーンはオープンテラスに移動しながら
感慨深げな顔で、
しばらくニ本の薔薇に眼を遣っていた。
━━(ミスグリーン)
母は、姿月 蒼(しづき・あおい)と言ったの。
左が雪で、右が月よ。
わかるわね。
このお庭だけが二人が寄り添える世界なの。
━━(真尋)……。
《 娘が母を思う気持ちにじ~んときていた… 》
━━(ミスグリーン)真尋さん、
薔薇の香りがするお紅茶はいかが?
━━(真尋)はい、いただきたいです。