碧月れいの【ショートshortシリーズ 】No.9 0.1秒の告白
🎶ネオンパープル
『ショートshortシリーズ』
9. 0.1秒の告白
映画《マスカレードハウス》が大ヒットし、
スポンサーも、マンハッタン-Ⅱの藤堂も、
ご機嫌だった。
異例だが、上映後1か月でのヒット祝を祈念し、
監督から発表があるとの連絡が
マンハッタン-Ⅱに届いた。
映画は、マンハッタン-Ⅱ~6期生の
《司》と7期生の《愛》の2人が
ヒーローとヒロインを務めるラブサスペンスである。
愛はゴシップ女優として、
芸能レポーターたちには人気があった。
インタビューでは、
「私はファザコンですから、
かなり年齢が上じゃないと感じないの。
この映画だと、折原監督ぐらいかしら(笑)」
と言い切り、場を笑いにしていた。
一方ダンサーでもある司は、
ユニセックスらしく、
女性と浮き名を流した話しは全くなく、
ダンスが恋人そのものだった。
タイプが異なる二人でうまくいくのか、
周りは心配していた。
芸能記者同志も、
「マスカレードハウスは、
バイプレーヤーたちに張り込んだほうがよさそうだな」
と…、主役二人のガードが甘くなっていた。
……
〔お祝いパーティーにて〕
━━(折原監督) 皆さん、お疲れさま!
喜んでくれないか。
マスカレードハウスの次作もやることになった。
今夜は、三次会まで、私のおごりだ。楽しんでくれ。
あちこちから、拍手や万歳!!の声が聞こえてきた。
主演の二人は感無量のようだった。
〔夜中2時半。三次会で〕
スタッフや俳優たちはすっかり出来上がっていて、
眠っている者ばかりで、
アルコールに強い愛と司だけが起きていた。
━━ (司)愛先輩、雨だし、オレ、送りますよ。
少しめまいが出てませんか?
━━ (愛)え?なに、
わかったようなことを言ってるのよ…
愛はかなり酔っているようだ。
━━ (司)オレも、昔、やったんですよ、
パニック障害。似てるかな…って。
愛が立とうとした途端に、
椅子からこけてしまった。
ようやく見つけたタクシーで、
愛の自宅に送り届けたが、
めまいが強く、
部屋のベッドまで愛を運んだ。
彼女を抱えた両手を放そうとした、
その時だった。
━━(愛)〔蚊の泣くような声で…〕
いつパニックが出るか…怖くて…、
司、私を…守っ…?
と言いかけて、
眠りにはいってしまった。
司は、独り言のように
「愛先輩、オレでいいのか?」と呟いた。
愛のデコルテは飛びつきたくなるほどまぶしく、
衝動を抑えるのに大変だった。
愛は眠りにはいったはずなのに、
一瞬だけ司を引き寄せた。
愛が「好きよ…」と言ったような気がした━━。
司は、日記に「愛先輩、0、1秒の告白」とメモった。
二人はマスメディアや世間対策のために、
プライベートでも、
マスカレードを演じることになった。