碧月れいの【ショートshortシリーズ 】No.8 真夜中のアイスダンス

🎶月明かりの灯台


『ショートshortシリーズ』

8. 真夜中のアイスダンス


湖上に浮かぶトライカ城は
中世の名残りをみせ、
リトアニアの宝といわれる。

特に真冬の湖上は
天然のアイススケートリンクに化粧され、
それは美しい世界になる。

リトアニア生まれのベス・クリスティーヌは、
オリンピック選手に選ばれていたことがある。
当時、スケート留学にきていた
日本人男性 と数年間ペアを組み、
アイスダンスの練習に打ち込んでいた。

最初はさほど異性を
感じなかった二人だったが、
次第にアイスダンスで
触れあう手を意識するようになり、
ある日結ばれてしまった。

ところがそのパートナーの
男性が応募していた脚本で賞を取り、
急遽映画制作のために
日本に帰国しなくてはならなくなった。

恋が始まった矢先だというのに…、
運命が引き裂いてしまったようだった。
ベスは意気消沈してしまった。

日本に帰ったその男性は
脚本界で頭角をあらわしていた。
現在大ヒット中の映画
<マスカレードハウス>の原作者、
青柳一生(あおやぎ・いっせい)であった。

青柳は恋人館のパーティーに
一度参加したことがあったが、
お互いに気がつかなかった。
今回の二回目はかなりの
数の防犯カメラが設置されたことで、
ベスは青柳を見つけることが出来たのだ。

ベスは彼を見つけるなり
飛んで行きたかったが、
専任看護師としてゼロの王子に
尽くす人生と決めていたため、
その熱い思いをこらえていた。
館内のカメラの中でのみ、
彼と再会していたのである。
何ともいじらしかった。

ところでベスは、
年中手袋を身につけていた。
なぜか?

かつて青柳と愛しあった
手の感触を終始感じていたくて、
異性とは直に握手しないためらしい。

何とも身につまされる話しである。

〔 ペントハウス隣りの 画像音響ルームにて〕

そんなベスの様子がおかしいと
感じた高梨はゼロの
王子の耳にいれることにした。

──(ゼロの王子)ミスター高梨が心配していましたよ…

──(ベス) …えっ、その、大丈夫です…。

──(ゼロの王子) 一人の日本人に釘づけのようですね。
今日の私にはロータスcab が
付いていますから安心してください。
ミスベスにはお休みをあげましょう。

─(ベス)あっ、はい…。

〔ベスは薔薇ガーデンを散策している青柳を見つけ…〕
──(ベス)イッセイ!

──(青柳) ベス!ベスじゃないか!

〔互いにかけより、ひと目も気にせず抱きあい、
熱いキスを交わす二人〕

──(ベス)私、諦めなきゃっ!て思ったの。
スケートは、シングルに変えて、打ち込んだわ。

──(青柳)オリンピックが近づいていたのに、
君の夢を壊してしまったから、
会わす顔がなかったんだ。
本当にすまない。

〔深々と頭を下げる青柳〕

──(青柳)
でも、どうしても会いたくて、
随分探したんだよ。ここにいたとはね。

──(ベス) そうよ。
ゼロの王子に拾ってもらったので、
専任看護師をさせてもらっているの。

そこへ、ゼロの王子が姿をみせた。

──(ゼロの王子) ミスター青柳が
まだ独身だったのは、
こういうことだったのですね。
ミスベスは寂しかったでしょうに、
よく私に尽くしてくれました。
ミスター青柳、ミスベスを放したらダメですよ。

──(青柳) はい、生涯放しません。
ベス、一生ぼくのそばにいてくれないだろうか。

〔ただただ、嬉しくて泣きじゃくるベス…〕

──(高梨) おめでとう!
じゃ、新婚旅行はリトアニアの
トラカイ城になりますかな(笑)。

二人は照れ笑いをしていた。

ゼロの王子が粋な計らいをできるようになったことを
ベスと高梨は喜んでいた──

真尋も、さぞ喜ぶにちがいない。

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