No.2 天使の耳
「愛沢なつきホテルクリニック」内の
レイアウト雰囲気は素晴らしかった。
ミス花凛からの声がけで、
クリニックはオシャレ雑誌「アレーヌ」
に掲載され、
30~50代女性のファンが増えていた。
2回目の取材は院長インタビューだった。
🌠
雑誌スタッフ:
こちらはストレス内科がメインですが─。
Dr.なつき:
ええ。藤堂オーナーのご要望で。
ホテル全体がストレスを軽減する工夫が
なされていまして、
クリニックはその一つと考えております。
雑誌スタッフ:
ホテル内を散策しますと、
おっしゃる意味がわかります。
Dr.なつき:そうですか。
さまざまなストレスをもった皆様の
心の重さを、少しでも軽くして
さしあげたいんです。
雑誌スタッフ:
ホテル内に流れているBGMも、
先生が監修されているとか。
Dr.なつき:
いえ正確には、私とDr.れい先生ですわ。
Dr.れい先生は、ご存知でしょ?
雑誌スタッフ:
銀座ホステスさんの間で、
〈美意識王子〉と言われている方ですよね。
Dr.なつき:ええ(笑)。
雑誌スタッフ:
先生は、1/fゆらぎ音楽をお使いに
なりますが、さらによりクールダウンに
なる音をご研究とか。
Dr.なつき:ええ。
恋に落ちた男女が見つめあったとき、
聞こえるはずがない相手の鼓動が
わかったとか、音はしていないのに、
キスし合う音が微かに聞こえたような…。
そんな音でない音を感じとる能力をもつ
生物がいる可能性があるんですよ。
雑誌スタッフ:まぁ、凄いお話し。
このインタビュー記事が
掲載されましたら、
なつき先生に音楽処方のオーダーが
増えると思いますよ。
Dr.なつき:
じゃ、ますますお勉強しなくちゃ!(笑)
音楽は心と体と脳を癒やしますし、
聴く人の人生をよりよく導く優れた
サプリメントですし。
🌠
惑星には、
そんな耳をもつ星人がいるらしい。
たとえば、ヨナ姫。
人のまぶたの音や葉が舞い落ちる音など、
12キロヘルツより上の静けさを聴くこと
ができる星人。
その天使の耳が機能不全に陥っていた。
初恋の彼の怒鳴り声で恫喝された
ショックにより、人には無音に聴こえる
12キロヘルツより上の高い周波数帯域の
静けさを聴ける能力が失われていた
からだ。
耳を取り戻すためには、
1/fゆらぎ音以上にデリケートな感覚
をもつ人間からのキスが必要だった。
ヨナ姫付き侍女たちの調べにより、
名医・愛沢なつきが、地球人ではない
星人の治療ができるのか、
またヨナ姫の音薬になりえそうな候補と
ここ、ザ・プリンセス横浜の関係者の
中で出会えるものなのか、
全くわからなかった。
🌠
ミス花凛は、レストランならびに宴会場
スタッフのホスピタリティー指導を兼ね、
月に4~5日は宿泊していた。
ホテル各部門の独身マネージャーたちは
ミス花凛の虜だった。
総支配人室の高山とミス花凛が中心で、
〈恋うさぎのためのホテルミーティング
企画〉が進められていた。
企画開始後2ヶ月を経て、
ようやく総支配人室長の田坂からOKが
出された。
ホテルマン、常連客、ホテルサポートクラブの
中の独身男女を主として、月二回、
ミッドナイトに始まることになった。
MC役には、藤堂オーナーからのオファー
により、ミス花凛と決まった。
〔最上階Moonstarのエグゼクティブ
フロア〕
仲(宿泊アシスタントマネージャー):
神野も参加するのか?
神野
(宴会アシスタントマネージャー):
夜10時でオフになるから、
マネージャーが参加していいぞ!って。
仲:…いや、別れたんだよ…。
高城(フロントアシスタント
マネージャー):
ぼくも今はフリーだから、参加するよ。
神野:仲と高城がいると、もっていかれ
そうだなぁ(笑)。
仲/高城:(笑)
そこへ、
和久井(ウェディング部マネージャー)
と
津山(カフェラウンジマネージャー)
の先輩離婚組が登場。
神野:和久井先輩もですか?
和久井:カップルばかり見ているとさぁ、
また結婚したくなってきちゃって(笑)。
美木さん(クリニック院長秘書)も
シングルって聞いたから。
津山:右に同じで(笑)。
高山さん(総支配人室スタッフ)って、
いい感じじゃない?
神野:美木さんも、高山さんも、
よさそうなす方だし、
彼氏、いないのが不思議だなぁ。
津山:でもミス花凛が全部くっちゃう
から、他の女性が気の毒じゃないか?
神野:津山先輩は優しいな。
スーパーマドンナは別格ですよ(笑)。
藤堂オーナーが狙っているとウワサも…。
だって、ホテルのアンバサダーに
決めたって聞きましたよ。
仲:え?そうなんですか。
ミス花凛は大阪新地ナンバー1の
スーパーレディですから、
関西のお客様をとりたいって
ことですかね。
津山:まぁ、そんなところだろうな。
うちのオーナーがモノにできますか
どうか…、こりゃ見物だ。
和久井:
津山さ、その表現はまずいよ…。
津山:いや、失敬。
🌠
男たちが雑談をしていると、
ミス花凛が現れた。
ミス花凛 :
皆さんは紳士ですわね(笑)!
普段拝見しているお顔と感じが違って、
チャーミングだこと(笑)。
和久井:
ミス花凛のオーラがすごすぎて、
みんな緊張していますよ(笑)。
ミス花凛:まぁ、ご冗談を…。
私などは、もうスコッチをいただきたい
くらいで。
ところでこの企画は、
ホテルのサポート会社でもある横浜海洋
イベント社の女性スタッフの皆さんにも
お手伝いいただいて、
素敵な出会いをプロデュースする場に
したいと考えています。
ミーティング中に、皆さんの中から
カップルが生まれるのは
OKですわ(笑)。
カップルには素敵なプレゼントが
出るとか…。
皆さん、張り切ってくださいネ。
そこへ、噂の女性たちがやって、
華やかなムードになった。
スコッチタイムとなり、ミス花凛が挨拶
しようとしていた。
🌠
大気中に透明状態で浮遊している
侍女たちは、ヨナ姫に代わって、
特別な耳を使い、参加者自身のもつ
音なき音を読み取ろうとしていた。
一日も早く、ヨナ姫の天使の耳が通りに
なることを祈りながら…。
No.3へつづく