No.8 ペントハウスの恋

 

🎶 受け継がれていく心



ベントハウスからの
早朝の眺めは美しかった。
360度大きな窓で囲まれ、
どこのフロアを歩いても
床暖房になっていた。

リビングでの麗子ママは、
珍しく興奮しているようだった。
あれだけ貴公子然としたフランス紳士に
デートを申し込まれたのだから、
当然かもしれない。

フェロー:このリビングは素敵な空間だね!

ミス麗子:どうも、アリガト。

ミス麗子:ローランのショコラ演出は
やり過ぎだわ。
私はこういうのはダメよ。
わかるでしょ?

フェロー:ママはサラッと、
スタイリッシュなのが
お気に入りだったかな。

ミス麗子:まぁ、そうね。
告白は、さりげないか、
シックにキザがいいわね。
貴方ならどうするの?
仮に都内で、気持ちを伝えるとしたら…。

フェロー:そうだなぁ‥。
たとえば天王洲アイルで
ミュージカルを見たとして。
その後
東京湾の貴婦人と言われる
ヨットでシャンペンを飲む。

それから貴婦人をみながら
運河沿いを散策し‥、
夜風を感じながら、
相手の目をみて
『…………』かな。
いや、恥ずかしくなってきた。
勘弁してよ。

ミス麗子:貴方はロマンチスト君だし。

フェロー:そうかな。
そんな時間はぼくには夢だなぁ。
数時間でもクレオパトラを、
独占するなんて、贅沢さ。
このスコッチ、
まわりが早いなぁ…。

ミス麗子:坊やは、カワユイ(笑)。
ホント、純粋‥。

フェロー:またからかうんだから。
麗子さんにはDr.れいがいるでしょ?
‥‥もう帰るよ。

ミス麗子:誰かさんのバァ〜カ‥。
女ごころの美空間は
デザインできないんだから。

フェロー:…

ミス麗子:彼はジェンダーレスよ。
私は美の女神だから、
鑑賞用でいいみたい(笑)。

フェロー:じゃ、ステディはいないんだ。

ミス麗子:
ステディになってほしい人ならいるけど。
私に興味がなさそうで…。

〔フェローの顔を見ないで、
一言そう言い放ったミス麗子。
フェローの胸は妙に高なりを感じた。
えっ、まさか‥、ミス麗子が‥。ありえない〕

フェローはミス麗子の予期せぬ一言に、
一瞬目が泳いだ。

フェロー:……

麗子はフェローの肩に頭をもたげた。
ミス麗子:〔小さな声で〕
男を部屋にいれたのは初めてョ…。

フェロー:〔ミス麗子の口に指をあて〕
麗子さん‥。

ミス麗子:麗子 って呼んで‥。
すかさずフェローは
ミス麗子の唇を奪った──。

絵になる男女のKissは
まるでアートのようであった。

フェロー:今日は眠ったほうがいいよ、れ、麗子っ。
パートⅡはまた次回にしよう。

ミス麗子:わかった、
クリスチャン。紳士だこと。

…………………………

月曜日の朝がきた。
ミス麗子は
帝国ホテルにローランを尋ねた。

ローラン様は
お店の常連ではない方ですので、
プレゼントを手放しでは
喜べないとした上で、

ミス麗子:先日のお話し、
私には夢のまた夢でした。
私、銀座を
守っていかなくてはなりませんの。
ですから、
プライベートLOVEは戒めておりまして。 

私用にチョイスしてくださった
ショコラのみ有り難くいただきます。
お気持ちに添えなくて。

ミス麗子はショコラツリーに
要した実費代約462.500円を
小切手で払った。
ローランは握手し、
笑顔でラウンジを跡にした。
〔一人になったミス麗子は
カフェラテをオーダーした。
クリスチャンがカフェラテが
好きだったことを思いだしていた〕

『アイツがあんなKissするなんて…。
許せないわ!
私の心を奪うなんて!
(ほくそ笑みながら)』

ミス麗子は、
恋する乙女の可憐な表情になっていた。

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