No.8 ゴッホの《星月夜》を前に

🎶星降る夜に

ミスグリーンは、
アストンマーチン・グリーンの中で、
自由の女神前で出会った
初老の紳士のことを考えていた。

「リバティ島には
フェリーとヘリ以外に行くことができない。
フェリーは終わっているし、
ヘリの音もしていなかった。
では早くからリバティ島に
来ていたのだろうか。

あんな時間に、あの体で、
何をしていたというのだろう━━。
まさか、何かの亡霊!?」

………

車は、ヒルトンホテルで
碧川と三井を乗せ、
ニューヨーク近代美術館へ向かっていた。

やはり、シルクキャッツこと、
一色 翔の姿はなかった。

真尋は、翔の体が心配だった。

この日の夕方から、
自由の女神のいるリバティ島には
入ることができなくなったため、
急遽、場所を変更したのである。

ミスグリーンの顔で、
第一級の美術館に入館できるとは、
真尋はミスグリーンの力に舌を巻いていた。

ゴッホの名画《星月夜》は
ニューヨーク近代美術館の
永久コレクションである。

何度も見入っているうちに、
ミスグリーンは、亡き母が生前、
話してくれたエピソードを思い出していた。

「緑子、この絵の三日月と星は、
私と一色自身なのよ。
彼がこれから描く月と星の絵には、
ちょっとした "種" を埋めるらしいから、
それを見つけてみては?」

確かそのような言葉だと記憶していたが、
当時の緑子にはピンとこなかったのである。

その "種"とは一体……?

そして、その"種"が
一色の絵画盗難事件の謎を解く鍵に
なっているとすれば~?

ミスグリーンは、
自分には知らされていない
秘密の扉を開ける時が迫っていることを感じていた。

〔ゴッホの《星月夜》の絵の前で〕

碧川と三井が丁重に挨拶をし終わったところに、
亜梨沙に車イスを押された一色翔が近いてきた。
亜梨沙はずっと翔の世話をしていたようだ。

亜梨沙の隠れた母性が感じられ、
真尋は内心喜んでいた。

━━(翔)緑子さま、
ご無沙汰をしております。

いえ、先日はリバティ島での
お優しさに救われました。
心から感謝いたします。

〔といいながら、
車イスから立ち上がろうとし、
またよろけてしまった〕

━━(ミスグリーン)
やはり貴方だったの。
ずっと昔会ったような…かすかな記憶が。

大変でしたわね。

〔~と話し始めたところで〕

ミスグリーンは、翔に握手を求めた。

翔は両手で、握り返した。

━━(ミスグリーン)
まだお怪我が治らないのかしら?
お気持ち、お楽になさって。

おおよその話は、
ミス真尋から聞いていますから。

━━(翔)王子の書簡を読んでいただき、
有り難うございました。

━━(ミスグリーン)
母の絵が描かれた絵が盗まれたんですって…。
手がかりは?

━━(翔)はい、このゴッホの《星月夜》と、
緑子さまのペンダントが
手がかりらしいことまでは…。

━━(ミスグリーン)神様が、
私たちをこの美術館へ
引き寄せてくださったようですね。

……

一色翔は、ミスグリーンの疑問に応えた。

一色翔がかなりの怪我をしたと
知らされた
王子が
『空飛ぶバイク・プリュビエ』
を送ってくれていた。

老人に変装してそれに乗り、
入院中の病院から
リバティ島までやってきて、
ミスグリーンを待っていたという。

しかし先日はグリーンの衣装でもなく、
ペンダントもされていなかったので、
違う夫人かと思ったとか。

ここで、まさか王子のプリュビエが
活躍していたとは一同驚かされた。

━━(ミスグリーン)そこまでして、
私に会おうとしていただいたとは感激ですわ。
王子は余程、ミスター翔を信頼しているようですね。

ミスター翔、
美術館への侵入はもうお止めなさい。
あとは私とミス真尋が謎解きに
チャレンジしましょ。
ミス真尋、さぁ、東京へ行きますわよ。
貴女は秘書役よ、いいですこと!
ミス亜梨沙、翔を頼むわね。
私が不在の間、私の家の離れを使いなさい。

警備上、安全ですから──。

翌朝、ミスグリーンと真尋は、
東京へ飛びたった。

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