No.11 恋薔薇プリンセスの泪
神野はヨナ姫を初デートに誘った。
まだ体調が不十分だからか、
ヨナ姫は少し元気がなさそうに見えた。
ヨナ姫は姿を消し、
浮遊状態で回ったほうが疲れないという。
そこで神野も一緒に姿を消すという
初体験に挑戦することになった。
国内でも屈指の近未来的なエリア、
みなとみらい21―。
ヨナ姫のお国の未来都市づくりの参考に
なればよいと神野は思った。
みなとみらいクィーンズタワー
横浜赤レンガ倉庫
元町ショッピングストリート
大桟橋国際客船ターミナル
山下公園
横浜マリンタワー
ホテルニューグランド内シーガーディアンⅡ
横浜ランドマークタワー
八景島シーパラダイス水族館
三渓園
馬の博物館
こどもの国
横浜スタジアム
YOKOHAMA AIR CABIN
などを回った。
するとヨナ姫がニコッと笑って、
控えめに口を開けた。
ヨナ姫:
どこもチャーミングでしたわ。
有り難うございます、神野さん。
あの、…お伝えづらいのですけど…、
私のお国は、みなとみらいより
100年以上の未来科学都市でして…、
車がお空を飛んでいますし、
家事はすべてロボットがこなしますの。
神野:
〔驚きながら〕
ええ!!ホントですか?
SFみたいですね。
あっ、だから姿を消したり、
地球人に化身したりできるわけですね!
ヨナ姫:
そ、そうですね…。
驚かせてしまい、ごめんなさい。
神野:
いえ、そんな、謝らないでください!
ヨナ姫:
はい。
AIR CABINは気に入りましたが、
60年前からあったみたいですの(笑)。
今は、STAR CABIN といって、
日本のバスや電車の代わりに
星内じゅうで使われていて、
スピード調節もできますの。
神野:
ヨナ姫のお国を見てみたくなりました。
ヨナ姫:
あの、…大事なお話しをしても?
神野:
はい、もちろんです。
ヨナ姫:
実はお国の星王が守っていた
「魔玉の瓶」の話しを聞いてください。
以前私を傷つけた男がこっそり開けて
しまったのです。
それ以来、
そのことでお国のあらゆることが乱れ、
混乱してしまいました。
瓶の底には、
パンドラの箱のように「希望の光玉」が
隠れていまして、
それを光らせるためには
血が繋がっている私が恋うさぎとなり、
星じゅうに薔薇を咲かせるしかないと
言われました。
神野:
つまり、ヨナ姫が恋薔薇プリンセスに
なられるのが
唯一の道だということですね?
あっ、だから、
近くに薔薇園のある、この
「ザ・プリンセス マリーナガーデン
横浜」を選ばれたのですね!
ヨナ姫:
ええ。
そして、神野さんに思いを寄せることが
出来ましたの。
ただ…、
神野:
ただ、何ですか?
ヨナ姫:
神野さん、一度だけ、
私の唇を奪っていただけませんか?
一度だけ!お願いします…。
神野:
意味が?
ヨナ姫:
父が危篤で、
今日明日の命だと知らせが!
私は急いでお国に戻らなくてはなりませんの。
神野さん、一度のキスなら、
私は生きて帰ることができるのです。
それ以上の行為になると、
神野さんは次の星王になって
いただかなくなくてはなりません。
お国のことを全然ご存知ない神野さんに
大変なご苦労をおかけするわけには
参りません。
わたくしがこうして、好きな気持ちに
なれましただけで有難いし、幸せですの。
🌱
ヨナ姫の片方の瞳から一筋の泪が流れた。
自分がこの上ない重要な立場に
置かれているという緊張感で、
神野は固まってしまった。
神野:
ぼくの気持ちはどうなるのですか?
ヨナ姫:
……
神野が横浜ポートタワーのほうを
見上げた瞬間、ヨナ姫が唇を重ねてきた。
一度離した唇に、
今度は神野からキスをしようとしたとき、
「ダメ!ダメです!忘れませんから
貴方のことを」と言い放ち、
ヨナ姫の姿は消えてしまった。
浮遊していた神野の姿は
いつもの姿に戻ったが、
山下公園を行き交う人たちにかまわず、
神野はその場に泣き崩れてしまった。
🌱
〔二人に恋花が咲き始めたことを知る
数人が集まる。
ヨナ姫は姿を消し、神野は高熱で入院していた。
藤堂オーナー、総支配人室スタッフ、
ミス花凛は海外出張で不在であり、
Dr.れいも国際会議でつかまらなかった〕
そのとき、数か月ぶりに、
出張先の成田国際空港から
電話がはいった!
総支配人のマダムベルと眞尋が
帰国したとの連絡が入ってきたのだ。
どうやら、藤堂オーナーやDr.れいから
リアルタイムでヨナ姫エピソードに
ついては連絡がいっていたらしい。
〔2日ぶりに目が覚める神野〕
Dr.なつき:
ようやく熱が引いてきましたね。
もう安心だわ。
心配かける方ですこと―。
神野が事情を説明しようとしたとき、
マダムベルが部屋にやってきた。
マダムベル:
神野君、
ヒーロー役で、一躍大注目株ですね!
大変だったわね。
先ほど、ヨナ姫付きの侍女のお一人から、
私と眞尋さんがすべての事情を
伺ってきましたよ。
眞尋:
神野さん、お久しぶりです。
ピュアで、ヒューマニストの神野さんは、
お星さまをファンにされたんですね。
素晴らしいわ!
私も恋人館の王子様のことを
思い出したりして―。
失礼しました、こんな話は。
ごめんなさい。
神野:
…皆さん、ご心配をおかけして。
〔神野はまた目を閉じてしまった〕
最終回へつづく