碧月れいの【ショートshortシリーズ 】No.7 “アイリーン” と名乗る女
🎶放課後の海辺
『ショートshortシリーズ』
7. “アイリーン” と名乗る女
北乃の熱い思いはいまだ
消えてはいなかった。
警視庁からの出向により、
ロンドン警視庁で多忙を極めていた若かりし頃、
北乃は小さな約束を守れなかったことがあった。
<世界のセレブが集まる恋人館なら、
あの人と偶然再会することもありえないだろうか…>
ひそかな期待を寄せながら、
北乃は例年、
Xmasシーズンに恋人館に姿を見せていた。
北乃と、真尋の父親の柚希は
ロンドン警視庁の警部として、
5年も共に研修を受け、
いくつもの手柄も上げたことで注目されていた。
ところが北乃はひょんなことから、
アイリーンと名乗る女性と恋に陥ってしまった。
気品がありながら、甘く、知的な雰囲気の女性は、
そこはかとなく魅力的であった。
妻に先立たれた寂しさからか、
北乃はその女性に惹かれていった。
ある日、女性がアメリカへ帰国する便を
見送りに来れたら、
住まいを教えると約束をされていたが、
事件の捜査に駆り出されたため、
北乃はその約束を破ってしまった…。
アイリーンは、他日、
ロンドンの<シャーロックホームズの部屋>で、
独身女性たちにこう述べている。
━━(アイリーン) 殿方には二通りありますの。
一方は、ちょっとした小さな約束でも
守ってくれる人。
他方は、ちょっとした小さな約束でも
守れない人です。
仮に午後5時にこちらのバーで
待ち合わせをしたとしよう。
平気でニ時間も待たせてしまう。
また約束を忘れてしまい、
「ごめん、ごめん」と軽く電話やLINEしてくる人、
こんな殿方を信用できると思いますか?
ちょっとした約束でも守れる殿方なら、
皆さんが惚れてもかまわないことよ(笑)。
……………
アイリーンは、
シャーロックホームズが尊敬したレディで、
彼が心惹かれたことで知られている。
北乃はあらゆる手立てを講じて彼女を探したが、
いまだに見つからない。
プライベートなことながら、
警視庁のエースといわれる
柚希警視正の力を借りることにした。
北乃は、東京は千代田区三番町の
お屋敷町にある柚希邸を訪れていた。
━━(柚希)娘はニューヨークなんだ。
ちょっとした名探偵をやっているよ。
これが、刑事たちにも人気があるんだ(笑)。
その真尋なら、見つけてくれるんじゃないか。
こちらでも、それなりに探してみるが。
━━(北乃) 真尋さんっていうのか。
確か、ゼロの王子を救った女性だったな。
新聞の写真を見て、
ダーツバーで会った女性じゃないかと
思っていたんだ。
とびきりの美人じゃないか。
━━(柚希)えっ、そうかね…。
有り難う、母親に似たんだ。
━━(北乃)ぼくは息子だけだから、羨ましいよ。
北乃の心に、かすかな希望が見えてきた。