碧月れいの【ショートshortシリーズ 】No.6 スタイリストの恋
🎶夢
『ショートshortシリーズ』
6. スタイリストの恋
業界の春のパーティーで、
藤堂夫人からスカウトされ、
マンハッタン-Ⅰ のスタッフとして
チャンスを広げていた。
〔注: マンハッタン-Ⅰ は、
六本木恋愛芸能スクール
マンハッタン-Ⅱの前身である〕
スクールでは、かなりグラマラスな
夏未に寄ってくる
男子学生たちが多かったが、
本心とは裏腹に恋は
お休みだと言い放っていた。
その一方で、
歌手グループ "Sensitive boy"
の追っかけに夢中になっていた。
夏休みのある日、
藤堂から、人気アイドルグループ
"Sensitive boy"
の一日代理スタイリストの
仕事をやらないかと連絡がきた。
夏未は天にも昇る気持ちで、
静岡の天竜ロケに同行した。
天竜の夏は厳しく、
この日は気温 39度 湿度98%だった。
それでも、夏未は重い衣裳を
あちこち持ち歩いて頑張っていた。
そんな時、
一番好きな<隼人>が熱中症になり、
撮影は一旦中止に。
夏未は救護用の車に彼を連れていった。
愛されている夢を見た
その相手と二人だけなんて、
まるで夢のようだった…。
隼人は、申し訳なさそうに
していたのがわかった。
━━(隼人)すみません。
ご迷惑をおかけして……。
━━(夏未)いえ、大丈夫ですよ。
それより、診療所の先生が
まもなく見えますから、
休んでいてくださいね。
夏未は、しびれて手が動かない彼に代わり、
何回も首の周りや背中を冷やしてあげた。
━━(隼人)〔恥ずかしそうに〕
…すみません、そんなことまで…。
生き返るようです。
思った以上に好青年の隼人だ。
さらにファンになりそうである。
医師の車が着いた。
あとは付き添いナースに任せ、
夏未は救護車から出た。
〔ロケからの帰りのバスの中〕
翌日、隼人に元気が戻ってきた。
━━(隼人) あの、今度、
ご飯行きませんか?
昨日のお礼がしたいので。
━━(夏未) 売れっ子の隼人君が、
私なんかのために?
ファンに見られたらまずいでしょ。
━━(隼人) ……俺、年下だけど、
友達からということじゃダメでしょうか?
━━(夏未) からかってます?
いくつもお姉さんですよ。
━━(隼人) あの…俺、マジに…
本気になりそうでヤバイです!
夏未は、隼人の顔が
みるみる真剣になっているのに驚いた。
夏未は夢を見ているんだわ!
と思いこませ、恋人館の仕事に移った。
隼人からのLINEは熱く、
どうやら自分への気持ちは
偽りではなさそうだ。
<今度は片想いじゃないわ…>
く夏未は嬉しかった。
恋人館での夏未の
スタイリストぶりは素晴らしく、
夏未なくしてマスカレードパーティーは
ありえないというぐらい、
ゼロの王子の信頼を得ていった。
その後、新しいマンハッタン-Ⅱと
恋人館との陰のパイプ役を
務めてくれたのは夏未であった。
恋人館での
マスカレードパーティー当日、
東京のスクールで使っていた
真尋のオーダーヒールと
全く同じものが恋人館で用意できたのは、
夏未がパイプ役で繋がっていたからである。
恋人館での生活が落ち着いてきた夏未に
まさかの珍客が尋ねてきた。
━━(隼人)会いたくて、
俺、来ちゃいました。
マスカレードの仮面や衣装もバッチリです。
今夜踊ってください。
<ホントに、隼人だっ!>
夏未は信じられないでいた…。
仲良しのおしゃべりロボット:
ロータスCabから、
<夏未さん、ラブラブのチャンスです!>
と、明るいコンビュータ音を出しながら、
話しかけてきてくれた。