『 天空の恋人館 』No.15 恋人館誕生の秘話
🎶夕べの星
『天空の恋人館』
15. 恋人館誕生の秘話
空から降ってくる何本もの
氷の毒矢をかわしながら、
男は恋人と逃げていた。
男は全身甲羅のように
鍛えた体で恋人を守っていた。
だが毒矢がささり、
恋人は命を落とした。
死後、恋人には
お腹の子がいたことがわかった。
恋人の首からぶら下がった
ペンダントには、
かすれた文字で、
a◯◯◯r という名前が刻まれていた。
男は再び逃げていた。
ただ、一人で…。
ライゴン(ライオンとドラゴンの混血)
の不治の血で塗られた背中の一ヶ所に
一枚の菩提樹の葉がつき、
そこに毒矢が突き刺さった━━。
男は、連続した二つの夢の中でうなされ、
叫び声をあげ、気絶してしまった。
なぜ、こんな夢を見たのかわからなかった。
二週間の高熱が収まり、
眠りから醒めた男は、
ショックで、声が出なくなっていた!
男は重篤な神経障害に犯され、
医師からは、10年を過ぎると
脳は停止する可能性があると告げられた。
男の名は、チャックリークリス王国の
次期国王を約束されていたルイ皇太子。
ゼロの王子、その人である。
皇太子は弟のプリュスに国王を譲り国を出た後、
ゼロの王子の異名を使い始めたらしい。
治療法を探しに世界中を回った
ジェニー高梨とベス・クリスティーヌは、
精神科医と看護師であった。
王子親衛チームのメンバーで、
いまや命綱的存在である。
王子がウィーンに滞在中、
精神分析医の治療を受けた夜、
夢の中で神からのメッセージを受け取った。
━━(神の声) 治療薬は
〈X'masイブ、a◯◯◯rの愛〉のみ。
神戸に天空ガーデンをつくり、
恋人館を建てよ。
建立後7年目に王子を癒す者が表れる。
ゼロの王子は、毎夜毎夜に、
ムーンメディテーション(月瞑想)を行い、
やっとのことで、昔の夢に出てきた恋人の
ペンダントの刻印を思い出したのだ。
━━(王子)
[口だけを動かしながら]
あれは、" amber" だ。
そうだ。琥珀色のキャッスルを建てよう。
こうして、天空の恋人館は誕生した。
…………
[シーンは、藤堂オーナー室]
昨年のマンハッタン-Ⅱ 主宰の
X'masイベントにやってきた
快盗シルクキャッツは、藤堂オーナーとは、
若かりし頃、ニューヨークのダンススクールで
共に汗をかいた貧乏仲間。
地獄耳のシルクキャッツは、
ゼロの王子の悲話に光を当てたいと、
話しを持ちかけてきた。
「藤堂、力を貸してくれないか」
━━(藤堂)よし、わかった。気の毒だな。
オレたちで、王子を何とか救おう!
翔(本名)には、借りがあるからな(笑)。
━━(翔)じゃ、作戦会議といこうか。
━━(藤堂)それなら、うちの期待の星、
真尋しかいないな。
ただ真尋をその気にさせるには、
きっちり仕掛けなきゃならんぞ。
━━(翔)というと?
━━(藤堂)礼子と甲乙つけ難いたいぐらい
スタイリッシュな美人なんだが。
頭も、勘も、飛び抜けていい女(こ)でね、
仕掛けが読まれたら、そこで万事休すになる。
━━(翔)じゃ、来年度の部門グランプリを取らせ、
受賞仲間で、恋人館へ行かせたらどうか。
━━(藤堂)よし、それで行こう!
━━(翔)そうと決まったら、
恋人館側に情報を届けよう。
……………
[恋人館のガーデンから
キャッスルを見上げる真尋]
━━(真尋)キャッスルは、
なぜ、琥珀色なのかな。
西洋のお城は白、オレンジ、
グリーン、レンガ色などが多いわよね…。
あっ、もしかして…。