No.16 アンキアーノに乾杯
🎶 曇り空と風車
4月15日がきた。
偉大なるレオナルド・ダ・ヴィンチの誕生日に、
彼を育てた小さな村にいるとは感慨深く、
ミス麗子は緊張していた。
ミス麗子:〔進んで握手を求めながら〕
昨日はお目にかかれて幸せでした!
ミスグリーン:〔ミス麗子の手を握り返して〕
ぐっすり眠れまして?
ミス麗子:それが、
ミスグリーンとダ・ヴィンチのお顔が浮かんで。
緊張したようで、なかなか …(笑)。
ミスグリーン:それは申し訳なかったですわ(笑)。
じゃ、ランチはご馳走させていただくわ。
わたくしは早くから
教会でお祈りしていましたのよ。
ミス麗子:何を …、ですか?
ミスグリーン:ダ・ヴィンチの
お顔が怖いでしょ?
だから天国で安らかなお顔になって、
私たちに光りを届けてください!って(笑)。
ミス麗子:お優しい。
そういえば、和製ダ・ヴィンチを
目指している知人が、
「ダ・ヴィンチ先生に
京都広隆寺の弥勒菩薩半跏像を
お引合せしたかった」
なんて言う人がいるんですよ。
ミスグリーン:その言葉、
ご本人の隣りでお聞きしましたわ。
Dr.れいでしょ?
ミス麗子:まぁ、奇遇ですね。
Dr.れいをご存じでしたか?
ミスグリーン:ご存じもなにも、
私のお師匠さまよ。
美意識研究のマスターで、
ルネッサンス、シェイクスピア、
ギリシア哲学、世阿弥まで
教えていただきましたの。
今は、ただ一人の生涯のお友だちかしら。
彼からの教えがなければ、
私は世界には出ていなかったでしょう。
貴女は?
ミス麗子:私を銀座に導いてもらった
大恩人なんです。
同じ天才でも、
ダ・ヴィンチ先生より人間的で、
お会いするたびに惹きつけられます。
ミスグリーン:あら、ミス麗子は
Dr.れいに惚れてるのかしら?(笑)
ミス麗子:〔恥じらい顔で〕いやですわ。
からかわないでくださいませ(笑)。
ミスグリーンもでしょ?
ミスグリーン:もちろん認めますわ。
ただし、私は彼の計り知れないほどの才能と、
ミステリアスさと博愛さに惹かれますのよ。
知的なセクシーさも、魅力的。
まるで宇宙少年だわ(笑)
じゃ、私たちは共に、
姉妹弟子ということになりますね。
ますます、嬉しいですこと!
ミス麗子:〔目頭を押さえながら …〕
こんな光栄なことはありませんわ。
来てよかった ……。
ミスグリーン:Dr.れいも、
ダ・ヴィンチ同様、
未来を読めるところが凄いですわ。
私たちがヴィンチ村に
くるように導いてくれていたと思いませんか?
さぁ、アンキアーノの
生家へ参りましょうよ。
ミス麗子:ええ。
そういえば、彼からヒントをいただいていました。
「アンキアーノの生家の庭から見えるものは?
貴女に弥勒菩薩半跏像が見えるかな。
見えたとしたら、壊れつつある日本人のために、
ミニ菩薩さまを育てることです!」だったかと。
ミスグリーン:… なるほど、彼らしいわ。
Dr.れいはこの地で、
世界を見つけていたようですね。
二人は村人おすすめのイタリア農家ランチをとり、
レオナルドが愛した地元ワインを飲み、
ダ・ヴィンチの生誕を祝った。
ミステリーの謎解きを始めた。
Dr.れいはダ・ヴィンチ自身が
見つけた天与の才能に近いものを、
いつ、どの時間に、
どの状況で感じとったのか ──。
Dr.れい自身、
「ダ・ヴィンチ先生の
世界を知らなければ、
いまのぼくはなかった」
と言っているほど、
影響を与えたからである。
しばらく話し込んだあと、
数キロほど北にある
ダ・ヴィンチの生家に向かった。
……………………………
〔生家の前に立つ二人。
しばらくの間言葉を失っていた ──〕
一人は、愛されなかった
幼き頃のダ・ヴィンチの孤独を想い、
一人は、ダ・ヴィンチとは
反対に愛情たっぷりの中育ちながらも
なぜか孤独だったDr.れいの
ひ弱さに想いを馳せていた。
二人のスーパーレディーの感動は続いていた。
ミスグリーン:ことばにならないわね …。
ここからの景色が、
ダ・ヴィンチの感性の扉を拓いたのね ……。
オリーブの香りやブドウ畑、
巣に戻ってくる小鳥たちの鳴き声、
毎日異なる風や木々の音、
パステル色に染まる
ヴィンチ村のレンガの建物 ──。
愛に飢え孤独と悲哀に耐えた
ダ・ヴィンチ少年は、
この景色の先に生きる世界があると
達観したにちがいないわ、きっと。
どうかしら?ミス麗子。
ミス麗子:ええ、同感です。そして …、
Dr.れいは、ダ・ヴィンチの
スーパーマルチな才能の源泉に
気づいたのかも。
ミスグリーン:そうでしょう!
彼はよく言うでしょ?
「人はそんなに変わらない」
「人はいつからでも変われる」と。
でも多くの人たちは人がもつ力を信じていないから
神さまを味方にできないとも ───。
この景色をみていると、
宇宙はわたくしのもの …、
わたくし自身が宇宙なんだわ!って。
ダ・ヴィンチ少年も、Dr.れいも、
最初から可能性の扉が開いている
ことを悟ったのじゃないかしら?
私たちも開いていたから、
やってこれたのでしょうね。
Dr.れいは、神さまは誰もが
可能性の扉を開けるチャンスを
くださっていることに気づいたのですよ!
やはり天才だわ ──。
明日の早朝、
もう一度生家に来ましょ。
まだヒントがありますわ。
ミス麗子:朝の風、飛び立つ小鳥たち、
オリーブの香りが異なりますものね。
そこでしょ?
ミスグリーン:明晰!
貴女も名探偵になれるわ(笑)。
〔翌日の朝、ヴィンチ村から生家に向かいながら〕
ミス麗子:なんだか、
Dr.れいにお会いしたくなってきましたわ。
ミスグリーン:〔胸を叩きながら〕
私は、ここにいつもいますわ(笑)。
Dr.れいは弥勒菩薩半跏像さまに
似ていると思いません?
毒も、垢もない美しいお顔のままですもの、
不思議。
ミス麗子:まぁ、ミスグリーンも、
ラブなんですか?(笑)。
ミスグリーン:アーチストですから、
恋多き女ですのよ(笑)。
でも彼は、
「自由の女神は世界のもの」
なんて言って、
一度も愛してくれたことがないのよ …(笑)。
貴女が羨ましいわ。
ミス麗子:… そ、そんな、
もう昔のことですよ。
京都の祇園育ちの彼には、
夜に生きる女があっているだけのことですわ。
ミスグリーンのような大輪の華は眩しいからですよ。
きっと、本命はミスグリーンですわ、間違いなく!
ミスグリーン:じゃ、狙っちゃいましょうか(笑)。
わたくしはKissで魔法にかけられますねよ(笑)。
ミス麗子:ぜひご教授を ──(笑)。
………………………………
ミス麗子はイタリアでの
かけがえのない時間を思いだしながら、
ラジオ局の玄関で、
ミスグリーンを待っていた。
つづく